目の前の少女は浅い寝息を立てて寝ている。
熱にうなされる、浅い寝息。
その小さな胸部は小さく上下しているが、いつ止まるかと心配するほどだ。
エルフの居室はかすかに良いハーブの香りがして、温かい日差しの入る部屋の中を暖めている。
先ほど早くに仲間が出て行ったあと、動かないよどんだ空気が時間を止めたようだ。
自分の前には、10年前の妹「リリー」と同じ名前の少女が横たわっている。
10年前のことを思い出しながら、彼女を眺めていた。
カマリアンというエルフの女は、先ほど「あとを頼む。目が覚めたら水を一口飲ませるのだぞ」と言ったきり、別室に行ってしまった。
彼女の屋敷は大きく、部屋を出たあと、何の音もしなくなった。
何部屋ぐらいあるのだろうか、隣の部屋あたりにいるというには静かすぎる。そもそも、エルフは大きな足音を立てたりしない種族かもしれないが。
今。
もし、この少女に触れようと思うなら、可能だろう。
この胸に抱くことも出来るかもしれない。肌を合わせることも。
かつての妹を抱くことができなかった、あのころの夢を叶えることができるかもしれない。
触れようか、と、腕組みをした手を解き、彼女の頬に触れようとした。
「おかあ…さん…」
「…」
手の温かさが触れる前に、少女は小さくつぶやいた。
「…さん…」
「何だ? リリー? 目が…」
覚めたのかと聞こうとした。
しかし、目は開かず、言葉も継がず、熱にうなされた状態のうわごとでしかなった。
「おか…さん…あの…ね…」
「リリー…」
一度出した手を俺はひっこめた。少しためらったが、またすぐ手を出して、彼女の手を取った。
「リリー、目が覚めたか」
彼女の手を強く握る。いくらか握り返してくれたようだった。
だが、手はとても熱く、まだ容体がよくなったとは言えない。
「おか…さんの…すき…な…おか…し…かって…きたよ」
そういえば。
彼女はこんぺいとうを母に買えうとしていたのだった。
そして、今、俺のポケットのかくしに、「こんぺいとう」を入れていたのを思い出した。
リリーを探しに行ったときに、こんぺいとう屋で購入したものだ。
正しく言うと、そのまま引き返そうと思ったのだが、こんぺいとう屋がとてもとても悲しそうな顔をしたので、少したってから
引き返し、買っておいたものだった。
「こんぺいとうだな、そうだ買ってきたよな、こんぺいとう」
「…こん…ぺいと…」
「これ、リリーの母さんに食べさせてやろう」
「おか…さん…」
まだ目はあかない。だが、言葉は聞こえてはいるようだ。彼女は言葉を繰り返している。
「リリー、お前、まだ食べてないだろう、こんぺいとう」
「こん…」
「母さんにおいしいか、甘いかどうか教えてあげなければな」
「おか…さん…おか…さん…」
今、冷静になって考えれば、俺も相当のアホだ。気絶している子供に食べ物を与えたのだから。
ノドにでもつまれば、命を失いかねない。
だが、この時の俺は、カマリアンの「水を飲ませろ」という言葉を思い出していた。彼女にこんぺいとうの甘さを知らせたかった。もどかしく思いながら懐からこんぺいとうを出し、ひとつをつまんで、彼女に食べさせようとした。が、乾いた甘菓子は、甘さを引き出すことはない。唇の中へと菓子は入っていかなかった。
俺は一度その菓子を口を入れ、それから、口移しで彼女の口に入れた。
涙が出た。
10年前、同じようにして見送った命があったことを思い出した。
木のほらで抱きかかえた小さい命のことを。
ずいぶん昔のことなのに、まるで昨日のことのように思い出すこととなった。
少ししてから、リリーの口が動いた。
「う…ん…」
「リリー?」
「おい…し…」
「リリー!」
「これ…甘いね…」
彼女が薄く目を開け、笑ってみせた。
同じく笑って見せた俺の顔は、涙でゆがんでいただろうか。
◆ ◆ ◆
仲間が帰ってくると、ひどい大けが野郎だらけで大騒ぎになった。
彼女もそれから日に日に回復するところとなった。
安心した彼女はこんぺいとうを買いにいくのを見て、一安心したのだった。
元気に笑うリリーを見て、俺は考えた。
俺は…妹の罪滅ぼしができただろうか。
俺には分からないが…そのまま答えで良さそうだ。
-----
ハインツ「なにこれこんぺいとうのステマ?」
マーセル「一番下にこんぺいとうのアフィリエイト置くんですねわかりましたw」
熱にうなされる、浅い寝息。
その小さな胸部は小さく上下しているが、いつ止まるかと心配するほどだ。
エルフの居室はかすかに良いハーブの香りがして、温かい日差しの入る部屋の中を暖めている。
先ほど早くに仲間が出て行ったあと、動かないよどんだ空気が時間を止めたようだ。
自分の前には、10年前の妹「リリー」と同じ名前の少女が横たわっている。
10年前のことを思い出しながら、彼女を眺めていた。
カマリアンというエルフの女は、先ほど「あとを頼む。目が覚めたら水を一口飲ませるのだぞ」と言ったきり、別室に行ってしまった。
彼女の屋敷は大きく、部屋を出たあと、何の音もしなくなった。
何部屋ぐらいあるのだろうか、隣の部屋あたりにいるというには静かすぎる。そもそも、エルフは大きな足音を立てたりしない種族かもしれないが。
今。
もし、この少女に触れようと思うなら、可能だろう。
この胸に抱くことも出来るかもしれない。肌を合わせることも。
かつての妹を抱くことができなかった、あのころの夢を叶えることができるかもしれない。
触れようか、と、腕組みをした手を解き、彼女の頬に触れようとした。
「おかあ…さん…」
「…」
手の温かさが触れる前に、少女は小さくつぶやいた。
「…さん…」
「何だ? リリー? 目が…」
覚めたのかと聞こうとした。
しかし、目は開かず、言葉も継がず、熱にうなされた状態のうわごとでしかなった。
「おか…さん…あの…ね…」
「リリー…」
一度出した手を俺はひっこめた。少しためらったが、またすぐ手を出して、彼女の手を取った。
「リリー、目が覚めたか」
彼女の手を強く握る。いくらか握り返してくれたようだった。
だが、手はとても熱く、まだ容体がよくなったとは言えない。
「おか…さんの…すき…な…おか…し…かって…きたよ」
そういえば。
彼女はこんぺいとうを母に買えうとしていたのだった。
そして、今、俺のポケットのかくしに、「こんぺいとう」を入れていたのを思い出した。
リリーを探しに行ったときに、こんぺいとう屋で購入したものだ。
正しく言うと、そのまま引き返そうと思ったのだが、こんぺいとう屋がとてもとても悲しそうな顔をしたので、少したってから
引き返し、買っておいたものだった。
「こんぺいとうだな、そうだ買ってきたよな、こんぺいとう」
「…こん…ぺいと…」
「これ、リリーの母さんに食べさせてやろう」
「おか…さん…」
まだ目はあかない。だが、言葉は聞こえてはいるようだ。彼女は言葉を繰り返している。
「リリー、お前、まだ食べてないだろう、こんぺいとう」
「こん…」
「母さんにおいしいか、甘いかどうか教えてあげなければな」
「おか…さん…おか…さん…」
今、冷静になって考えれば、俺も相当のアホだ。気絶している子供に食べ物を与えたのだから。
ノドにでもつまれば、命を失いかねない。
だが、この時の俺は、カマリアンの「水を飲ませろ」という言葉を思い出していた。彼女にこんぺいとうの甘さを知らせたかった。もどかしく思いながら懐からこんぺいとうを出し、ひとつをつまんで、彼女に食べさせようとした。が、乾いた甘菓子は、甘さを引き出すことはない。唇の中へと菓子は入っていかなかった。
俺は一度その菓子を口を入れ、それから、口移しで彼女の口に入れた。
涙が出た。
10年前、同じようにして見送った命があったことを思い出した。
木のほらで抱きかかえた小さい命のことを。
ずいぶん昔のことなのに、まるで昨日のことのように思い出すこととなった。
少ししてから、リリーの口が動いた。
「う…ん…」
「リリー?」
「おい…し…」
「リリー!」
「これ…甘いね…」
彼女が薄く目を開け、笑ってみせた。
同じく笑って見せた俺の顔は、涙でゆがんでいただろうか。
◆ ◆ ◆
仲間が帰ってくると、ひどい大けが野郎だらけで大騒ぎになった。
彼女もそれから日に日に回復するところとなった。
安心した彼女はこんぺいとうを買いにいくのを見て、一安心したのだった。
元気に笑うリリーを見て、俺は考えた。
俺は…妹の罪滅ぼしができただろうか。
俺には分からないが…そのまま答えで良さそうだ。
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